ポマトは、ポテト(じゃがいも)とトマトを細胞融合技術によってくっつけた植物です。
地下にはポテトが、地上にはトマトがきちんと成る植物となりましたが、どちらもそれら単体よりかは味や大きさ等々の面で劣っており、商業的には実用化には至りませんでした。
しかしながら、細胞融合によって異種の植物がくっつき、きちんと生育することが分かったという点で、バイオテクノロジーの分野においては、進歩する結果をもたらしました。
例えば、医療分野における、がん治療に用いられる単クローン性抗体の作成にも細胞融合の技術が用いられています。
今回は、細胞融合技術のさきがけとなった存在『ポマト』について、その歴史を含め紹介していきます。
- ポマトはジャガイモ(ポテト)とトマトを細胞融合して作った植物
- 50年ほど前のドイツで作られた
- 生育が難しく、商業的には成功しなかった。
- 細胞融合技術をもとにして、他のハイブリッド野菜の開発が進められている。
- 医療分野においても、細胞融合技術が役立っている。
ポマトとは?ジャガイモとトマトの驚きのハイブリッド。その味に迫る。
ポマトとは、ジャガイモとトマトが合体したハイブリッド植物です。
面白い植物ですよね!ここでは、ポマトの作り方、細胞融合に関して説明していくとともに、その味についても解説していきます。
ポマトの作り方と栽培の難しさ
ポマトは、今から50年ほど前の1978年にドイツのミュンヘンにあるマックス・プランク研究所(別名:ヴェルナー・ハイゼンベルク研究所)で細胞融合技術を用いて作られた革新的なハイブリッド野菜です。
細胞融合とは、本来自然界では融合しない、異種の細胞を人工的に融合させる技術です。
具体的に言えば、酵素処理によって細胞壁を除去し、プロトプロストの状態にした異種の細胞を細胞融合剤(PEG:ポリエチレングリコール)をつかって融合させる技術です。
異なる種の細胞を組み合わせることにより、地上部ではトマトが、地下部ではジャガイモが育つという多機能性を持ちます。しかし、一つの植物から二つの作物を収穫することは、それぞれが十分に成長するには限界があり、養分の不足により小振りになる可能性が高いです。。。
現代の栽培状況では、ポマトはジャガイモとしてもトマトとしても不完全で、実用的な作物としての成立が困難であり、商業化はされていないのが現状です。しかし、この細胞融合技術は、将来の農業において重要な役割を果たす可能性があります。
細胞融合によるポマトの開発
ポマトは、細胞融合技術を用いて作られた革新的なハイブリッド野菜なのは紹介した通りですが、この細胞融合技術は、【メルヒャーズ博士】によって確立されました。
プロトプロストをくっつけると合体して一つの細胞になることは、1970年ごろに別の研究チームによって判明していたが、そのくっつけた細胞を安定化させるために細胞融合剤(ポリエチレングリコール)を用いて、ポマト育成までこぎつけたのが、メルヒャーズ博士です。
そもそも、ポテト(じゃがいも)とトマトをくっつけようとした目的は、トマトは暖かいところで生育しやすく、寒さに弱いという弱点を克服させようとする目的でした。
つまり、寒さに強いじゃがいもと合体させることで、寒いところでも生育するトマトが作れるのではないか?と考えたのがきっかけとなります。
ポマトの特徴と味わい
ポマトの味に関しては、残念ながら一般的なトマトやジャガイモに比べて微妙。
ポマトからできたトマトは、トマトのような実にはならなかったようですし、ジャガイモ部分も細長く食用には適していないとされるため、味や質感の面では通常のトマトやジャガイモに及ばないとされています。
一本の植物で両方を収穫することは、養分の不足という問題を引き起こし、これが味やサイズに影響を与える原因となったようです。
ポマトとは味が微妙な失敗作?ポマトの利点と可能性はあるの?
ポマトは、味は微妙なのはお伝えしたとおりですが、失敗作なのでしょうか?ポマトが持つ潜在的な利点とそれがもたらす可能性について掘り下げていきます。
ポマトがもたらした可能性
ポマトの開発コンセプトである、ある植物の弱点に対して、その弱点に強い別の植物を融合させることにより、弱点を克服しようという考え方は、非常に有用と言えます。
ポマトは、商業的には実用には至らなかったものの、異種の植物同士を細胞融合することが可能であり、ちゃんと育つという結果をもたらしたということで、今後の可能性に繋げた大事な研究だったと言えます。
未来の農業への影響
耐病性や耐寒性をもたせる目的で、現在もなお細胞融合技術というのは、研究が進められている分野となります。
現在の研究の主流としては、ポテトとトマトのように遺伝的に遠い植物を細胞融合したとしても、それぞれの構造・組織が大きくことなってしまい、互いに邪魔をしてしまうので、うまく育たないのではないかということで、近しい植物どおしを細胞融合して、なにかに役立てることはできないか、という観点で進めているようです。
ポマトをはじめとするハイブリッド野菜。他の野菜の味は?
ポマトだけでなく、他のハイブリッド野菜との比較や関連性を探っていきたいと思います。
ハイブリッド野菜の世界
ポマトが細胞融合によって生まれてから、研究者たちは同じように異なる植物を細胞融合によってくっつけることができないか、研究を進めてきました。
例えば、こんな感じのハイブリッド野菜があります。
名前 | 何と何を融合させたか |
---|---|
オレタチ | オレンジとカラタチを融合させた品種。苦味があるので食用には不向き。残念。 参考:オレンジカラタチ中間母本農1号 |
ヒネ | イネとヒエ |
バイオハクラン | ハクサイとカンラン |
ベンリ菜 | 小松菜とチンゲン菜 |
千宝菜 | キャベツと小松菜 |
どれも、産業的に実用化には至っておらず、味についても、ごめんなさい、不明です。
バイオテクノロジーの進歩と影響
細胞融合技術は、植物をくっつけるだけにとどまらず、医療分野に応用が進められています。
具体的には、がん細胞と抗体産生細胞(抗体というのは、特定の異物に対して攻撃能力のある体内物質。がん治療に用いられることがある)を細胞融合させることによって、抗体を作りまくる細胞を作り、それによって作られた抗体を抽出し、薬とする技術です。
がん細胞の異常増殖能力を抗体産生細胞にもたらすことで、抗体を大量に作らせるという作戦です。
統括:ポテトとトマトの融合食材『ポマト』の歴史や可能性、その味は?
ポマトについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
味は、残念な結果となってしまったようですし、他のハイブリッド野菜も商業化には至っておらず、スーパーでお目にかかる機会はまだないのですが、、、今後の研究に期待ですね!
栄養価が優れた植物を組み合わせた、スーパー野菜が食卓に並ぶなんてことも、もしかしたら未来ではあるかもしれませんね。